大体10年前, 外山恒一の政見放送が話題になった.
動画を見れば分かるが政見放送の場で反選挙を物々しい様子で演説している.
政見放送はしばしば危なそうな人が出てくるが, これは「オチ」が綺麗で「ネタ」だと安心して見ることができる.
当時はまだお笑いブームも盛んで「エンタの神様」や「M-1」を観るような感じで一家団欒の時にこれを見ていた.特に私はその手の番組は熱心に見ていて分析もしていた. 当時の私の評価は, お笑いとしては面白い(力み過ぎた)トーンと雰囲気で話している点, 選挙の放送で選挙を否定する点でアピールしているが政治家が面白いネタをする必然性が無い点で設定に無理がある, 要するに面白くはあるが勢いだけのネタだと解釈していた.
だが気になる事に,父が笑いに疎い癖に反応が良すぎた. 何か私が分からないパロディや文脈か何か理解していそうな様子が癪だった.ちなみに父の出身校は東京のH大だがこの日記には関係が無い.
ネットで面白い政治ネタが上がるたびに彼もまた浮上し, そのことを思い出しては元ネタを探してみたりするのだが, 分かりやすく省略されたインタビュー記事ではそのモヤモヤは晴れず, 本人のホームページは文章量というか全体的なヤバさに手出しできない状況で長いこと放置された疑問となっていた. それが今になって新刊を出してきた.私としてはどうしても例の動画をお笑いとして消化したかったが手詰まりなので買って読んだ.
いきなり2chのニュース板?( それこそ10年前によく見かけて今はどこで騒いでいるのか良く分からない)の住人を対象としているような空気でたじろいだ. 一般人はせいぜい右翼や左翼という言葉に漠然としたイメージを抱くくらいでヘサヨやパヨクと言った専門用語は分からないしましてや青林堂という出版社名は初耳だろう.本文が彼の脳内インタビュアーとの会話方式なのも相まって空気の方は排他的である. しかし, 用語についての説明は対照的にフレンドリーだった.本の流れは世界全体の右翼左翼の概念のでき始めから日本での出来事をネットで使われているらしい専門用語ができるまで(そしてその少し先)をミッシングリンク無く順を追って説明しているため不本意だが門外漢でも分かった感じになる.歴史を語る上で外山恒一本人が活動する経緯・そのスタンスの背景にも触れられている.
それらが分かると10年前の解釈の誤りも分かることができる.選挙そのものに異議を唱えることも狂気に満ちた物々しさも政治活動に面白さを付けることも歴史に足をつけて踏み出した結果なのだと.他のネタの理解に役立つかは疑わしいが少なくとも外山恒一のネタの解説本としては確実に役立つ.
また, 他に類似する本を読んでいないので本当かは分からないが, 他の本ではほぼ触れられない年代の内容や対処法にも触れていると主張しているのでそれが本当かどうか分かる人ならそれらも役立つと思う.
繰り返して書くが不本意ながらその分野についてはほんの少し知識を得てしまったと思う.ただ, ネットの殺伐とした雰囲気が現実の社会にまで波及してきたような今の息苦しさの根源が見えたような気もする.もしかしたらネットで何かを強く主張することはある種政治活動と変わりが無いのかもしれない.いずれにせよ,自分が何をしていようとも息苦しい事は確かで, 面倒臭い世界の中で外山恒一という面倒臭い人間が何をしてこれから何をしようとするのかは割と応用が利くノウハウかもしれない.